代官町の我家の庭には蟇もいるし、大きな蛇も居る。

一度うす暗がりの夕方、自転車で帰って来た時、誤って蟇をひいてしまった。蟇は胃や何やら内臓を口から外に出したまま後ずさりで笹の中に入ってしまった。なんとも気持悪かった。

 

そのうち蟇の親子が毎夕暗くなってから芝生を横切ることを発見した。片親が後に一匹の子を従へ散歩の習慣があるらしい。

或日、芝刈りをした。夕刻やはり蟇の親子が現れた。刈りたての芝は腹にチクチクしてどうも具合が悪いらしい。どうするか興味を持って見てゐた。ちょっと逡巡してから蟇の親は手足をつっぱって高歩みの姿勢で芝生をわたり出した。子蟇が見習ったのはいふまでもない。

 

客と対談してゐた。ふと気がつくと芝生のへりに一匹の大蟇が居る。客に「蟇が出て来ました」といふと客は庭を見たが床の間を背にした座から蟇は見えない。「どこでしょう」といふので指さしたら、客は坐ったまま両手をついて身を乗りだした。その形は庭の蟇そっくりで可笑しかったが客にそのことはいはなかった。

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

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