日本のもぐらは、大和もぐら、あずまもぐら、神戸もぐら、佐渡もぐらなどがある。鼠と違って海を渡らないので純粋性があり、中国、韓国のもぐらとは違ふ。同じ様でも鼠は船のリギンを伝はって、シンガポール、ボンベイ、マルセーユ、ニューヨーク、何処へでも行ける。

 

神戸もぐらは体長十六糎、あずまもぐらは体長十四糎、次第にテリトリーを神戸もぐらはひろげて、かつては関ヶ原だったのが、二百年後木曽川まであずまもぐらを追って進出した。もぐらが川を越えるのは上流へ上流へと岸をさかのぼり、川幅がぐんと狭くなってから川底をくぐる。一家族のテリトリーは百米四方ぐらいときいてゐる。

日本のもぐらは北海道には住んでゐない。寒いからではない。緯度の高い中国の東北地方にも住んでゐる。津軽海峡を越せないからだ。

 

もぐらは冬眠し、関東地方で四月十日ごろから活動する。大そう敏感で、上で人の足音がすると動かない。もぐらをとるには暁方、そっとしゃがんでゐて、もぐらが土をもち上げて動き出した時、手袋の手を土中につっこんでつかまへる。つかまへたもぐらは、めす、おす(鑑別がむづかしい)ペアにして二組づつ土の入ったドラム罐に入れる。えさのみみずも用意する。

そこで軽トラックにドラム罐を二つづつをのせ、北海道に渡る。渡島半島の原野(ゴルフ場、畑、牧場は不可)に八匹をはなす。(もぐらの繁殖は鼠算だから、計画では五百年で北海道の半分位までテリトリーがひろげられる予定だ)。そして、「北海道土竜上陸地」の石碑を立てる。

 

農業に大切なみみずを主食とし、野菜の根を齧るもぐらは害獣といふ説がある。一方「エホバは善(よし)と見給うた」生物である。また、もぐらの糞はすばらしい肥料といふ説もある。アフリカの田舎では貴重なタンパク源になっているとも聞く。

 

一生の中後生に残ることを何もしなかった自分は、北海道にもぐらをエミグラシオンしたことで自己満足するつもりだ。

もぐら

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

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