足の裏の冩真が出てゐる水虫の広告を見てふと思ひ着いた。足の裏で劇をすることである。さっそく道具をつくり脚本を書いた。

台の上に額縁をのせ、両側の唐紙をしめる。額の中に絵はない。背景には、一枚の布を上だけとめて下ろす。背景はモンマルトルの丘で、所はサクレクール寺院のそばだ。

 

一人の画家が登場する。ベンチにかけ独白ではじまる。手製のベレー帽、目はピンポン玉を二つに切って、真中に碧い眼を入れ、両面テープでとめる。毛糸でヒゲをつくる。男の小道具はそれだけだ。

やがて女性が登場、同じベンチに腰かけ、女が話しかける。黄色い毛糸の髪、紙を切りぬいた睫の長い目と赤い唇、これも両面テープでとめる。

 

粋な会話がすすんで最後は足の裏と裏を合せ、熱烈なキスで終る。

御子様用に王子、王女、、魔法使ひが出るのも作った。王子がひっこんで急いで両面テープをはがし、また魔法使ひにつけて、出るのに八秒しか掛らない。足の裏を上向きでゆすると喜びの表情になり、足の指を曲げて下を向けると悲しみになる。色々やってみた。

 

三つ四つ話をつくってみた。好評だったが先に自分が飽きてしまった。週刊朝日から取材の話もあったが、単なるアイディアであり、誰にも出来ることで芸じゃないからと断った。其の後、水虫の広告にこのアイディアは盗用された。

足の裏の劇

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

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